外洋機動艦隊 外伝 −空母雛菊音楽隊−




───そして、一週間後。

「……いよいよ今日だな」山内はどこか感慨深い表情をしている。

「イヤッホオォォォォイ!!!」幡村は跳ね回っている。

「……(^_^)/」笹本も楽しみにしているようである。

「さあ、行きましょうか。ま、同じ雛菊の中なんですがね。」

宇和島と共に、三人は楽器屋を目指した。




 第二話 組曲第一番“全ての始まり”

 [意外なところに隠れている]




 -二〇五二年〇八月〇五日〇九時一九分、某大手メーカー空母雛菊店試奏室にて-


「……おお。」山内が感嘆の声をあげる。
 彼が見たのは、2種類20本のバストロンボーンだった。
「さあ、どうぞ試奏なさってください」
 メーカーの担当者が得意げに言った。
「一人で試奏させてください。決まったら呼びますので」 山内はマウスピースをブーブー言わせつつ言った。
「わかりました」 宇和島はそう言うと担当者と共に部屋から出ていった。
「……さて、どれから吹いてみようかな」山内はとても楽しそうに試奏し始めた。
 それを部屋の外から見ていた宇和島は、こちらも楽しそうに呟いた。
「さて、これからどうなりますかね。……まあ、初めてのことだからなあ。どんなデータが出るか、楽しみです」


  -二時間後-


「すみません、遅くなりました。これに決めました」
 山内はそう言うと、担当者に決めた楽器を渡した。それは、今時珍しい、ベルカット仕様のバストロンボーンだった。ベルの辺りには、手で彫ったと思われる美しい模様があり、見るからに高そうである。
「はい、分かりました。では、手続きをして参りますので、少々おまちください」
そう言うと、担当者は楽器を持って、店の奥へ。
「……入れ違いになったらイヤだしなぁ……」山内は、そこで待つことにした。

「どうやら良いものがあったようですね」
 そうなることを見越していたのだろう。担当者が楽器を持っていくとすぐに、どこからともなく宇和島が出てきた。この男、まさに神出鬼没である。
「そうですね。とても良いものがありました」山内はとても上機嫌だ。「あのときは疑ってしまってすみませんでした」
 そう言われて宇和島は、山内のニコニコした顔を見ながら、
「いえいえとんでもありません。こちらこそ」
と、こちらもニコニコしながら言った。頭の中でこれからの事をシュミレートしながら。

 三十分ほど経っただろうか。宇和島と山内が雑談していると、担当者が、山内が選んだ楽器を専用のケースに入れて持ってきた。それは、深い黒一色の四角いケースだった。持ち運びがしやすいよう、肩からかけたり背負ったりできる肩紐も付いている。
「お待たせしました」
「……おお!」山内は感嘆の声をあげた。「今になってやっとわかりましたよ」
「……何の事ですか?」宇和島が不思議そうに聞く。
「ここに来る前の質問ですよ。なんでこんな事聞くんだろう、と不思議に思っていたものですから」
 ここに至るまでに、山内達は宇和島にそれぞれの好みに関する様々な質問を受けていたからである。宇和島はなるほど、と呟いた。
「確かに、目的も言わずに質問ばかりするのも、なんか不気味でしたね」失礼しました、と、宇和島は軽く頭を下げた。
 山内はケースに目を移す。様々な角度からそれを眺めていた彼は、ふと、ポケットのようなものを見つけた。しかし、ただのポケットではなさそうだ。「このポケットみたいなものは、何ですか?」と、担当者に聞く。
 答えは至って単純だった。「名前や所属を書き込むもの用のポケットです」と言いつつ、彼は一枚のプラスチック製のを彼の持っているファイルから取り出した。それは薄く、かなりの柔軟性を持ち、白い。まるで紙のようである。そこには、枠線と項目だけが書いてあった。
「この楽器に名前をつけてみては如何ですか?」突然、宇和島が割り込んでくる。「そして、そのに書いては?」
それに対して山内は、少々苦笑しつつ、「……そうだな。名前か」と、小さく呟いてから、「……イシル。そうだ、イシルだ」と言った。
宇和島は、「エルフ語で“月”ですか。いいですね」とだけ言った。
それを聞くや否や、山内は担当者から油性ペンを借り、楽器の型番を書くべきところの右半分に“イシル”と書いた。そのあと、自分の名前やその他諸々を書き込んでいった。

 それから数分後、笹本が帰ってきた。どうやらこちらもいいのがあったらしく、彼女にしてははっきりとした笑みを浮かべていた。
 その後、山内は笹本が楽器に何と名前をつけるかを見ていた。興味があったから。
 それに気付かずにしばらく考える格好をしていた笹本だったが、ふとペンをとると、そのまま“シンベルミネ”と書いた。
 山内は聞く。「……忘れじ草、か。希も指輪物語が好きなのか?」と。笹本は二ミリほど頷いた。山内は、そうか、とだけ言った。
 それからしばらくは自分の楽器を眺めていた山内だったが、興奮からさめた山内は座ったまま軽く伸びをして、言った。「でもなあ。俺と希は終わったから良いんだけどさ……。幡村の奴、遅くないか?」


 その頃。


「いやぁ〜迷っちまうぜ♪」
 幡村はまだ頭を悩ませていた。ただし、ニコニコしながら。


 笹本が楽器を受け取ってから30分後。山内たちが幡村のいる試奏室に入ったとき、彼の前には、まだ3本のトランペットが並んでいた。
「おい幡村、いつまで悩んでんだ?」
幡村は、えーと、と少し考えてから、
「まだ当分」
と言った。
「……。おまえなあ……」山内は呆れ返った様子で言った。
「……(-ω-)」笹本も考えていることは同じようだ。
それを聞くなり、幡村は慌てて言った。
「わ、わわ、分かってるから!だから……」
「……だから?」
 山内が不機嫌全開な目で見ながら言う。
「だから、もう1時間待ってくれ!」
 それを聞くと山内は、はあ、と大きくため息をしてから、
「じゃあ、1時間だけ、、だぞ」
 と言い残して、宇和島と共に試奏室から出ていった。
 ちなみに、このとき山内は幡村が1時間過ぎてもまだ悩んでるだろうな、と予測していたのだが、それは見事的中し、幡村は結局もう3時間試奏室から出てこなかった。そして、昼過ぎに終わる予定だったはずが、自室に戻ったのは夕方になってしまった。ちなみに、幡村は楽器に“Dank{ダンク}”(ドイツ語で“感謝”の意)と名付けた。

「幡村」山内が優しく言う。「あのとき、幡村はあとどれくらいかかるって言った?」
「……1時間」幡村は申し訳なさそうに言った。
「じゃあ、結局かかった時間は?」山内の優しげな声の中に、静かな怒りをみた幡村はあわてた。そもそも山内は滅多に怒らないが、一度怒るととても怖い。こうなると幡村は、「ごっ、ごめんなさいぃぃ!」謝るしかないのである。
「……ッチ、ったく。いい加減にしろよ」
「はっ、はひぃぃぃぃぃっ!!」ひれ伏す幡村。それを腕組みしながら見おろす山内。
「\(@_@;)/」笹本は驚いている。
 それを見つけた山内は、「……希には怒ってないから、安心して」と、見当違いなことを言う。
「(・ω・)……」笹本はキョトンとしたまま、山内に向かって小さく頷いた。
 本人達はいたって本気でやっているのだ。だが、端から見ると、この三人のやりとりは漫才のように見える。と言うよりもむしろ、そうとしか見えない。
 そうしていると、不意に笑った人がいた。宇和島だ。
「……ああ、これは失敬。あなた達のやりとりが面白くて、つい笑ってしまいました」
 そうは言ったが、宇和島の顔は笑っている。どうやら、相当面白かったらしい。
「……えーっと、どこが面白かったんですか?」山内には分かっていないらしい。宇和島に不思議そうに聞く。
「どこ、と言われてもですね」宇和島は今にも吹き出しそうだ。「あなた達のしていること、全部ですよ」
「……全部、ですか」山内が言う。「具体的に言うと?」
「そうですね、」宇和島がほんの少し考える。「山内さんと幡村さんと笹本さんの掛け合い、ですかね。レベル的には、普通にお笑い番組で通用すると思いますよ」
「……そうか!」幡村が勢いよく立ち上がる。辺りが静まり返り、一斉にそちらを見た。
「何だ急に立ち上がったりして」
「いいこと思いついた!なあ、聞いてくれよ」山内の表情が途端に曇る。
「……どーせまたしょーもない事なんだろ?ま、とりあえず聞くだけは聞いてやる」
「あのな、」幡村は歩きながら言う。「そんなに面白いならさ、俺たち三人で雛菊のお笑い番組に出演したら……い゛っ!」そこまで言って、山内のパンチが炸裂した。
「な、なにするんですかぁ!」幡村が叫ぶ。しかしそこには、ものすごい形相の山内がいた。幡村は悟った。「ああ、やってしまった」、と。
「……なぁ、俺がそういうの嫌いって知ってから言っとんじゃろうなぁ!?」
 彼は演奏に関わること以外で人前に出ることを極端に嫌う人だった。それに加えて、山内は岡山出身であり、一度怒ると岡山弁で話すため言葉に凄みが利いてしまって、なおいっそう怖い。故に、音楽隊の中では密かに「半人半鬼のバストロ吹き」とも呼ばれていたりする。
 こうなると、止めることができるのは、笹本か宇和島ぐらいである。このとき止めたのは、笹本だった。
「…………落ち着いて………」
 その小さな一声で、山内が沈黙する。そして、決まり悪そうに「……悪かった」と言った。
「さて、落ち着いたところで、」宇和島が仕切り直す。「あなたたちに報告しなければならないことがあります」
「なんだ急に」最初に口を開いたのは山内だった。
「いえ、簡単なことです。今日付けでいったん本国に戻ることになりました」
「そうか。ご苦労様だな」
「お気遣い、感謝しますね。……おっと、そろそろ時間だな。では、これで」その楽器、大切にしてあげてくださいね、と添えると、宇和島は帰っていった。
「『その楽器、大切にしてあげてくださいね』か」
 山内は小さく呟いた。






第三話へ続く







後書きという名の何か

 こん○○は。小鶴巡人です。
 とりあえず、高校二年生って忙しいですね!お陰でいろいろな疲れがたまります。
 そろそろ本気で勉強しないとな〜とか言いつつも、PS2ごとエスコン04,5を買いました(ぉ
 それはさておき。
 今回は、とても時間の流れが遅いです、はい。一話まるまる使ってまだ一日経たないとか。
 もうグダグダになりかけてますが(汗)、生暖かい目で見守ってやってください。
 あ、感想なんかをもし書いていただけるなら、flanker_e2@ヤフーまで。

 それではまた次回お会いしましょう!



 2012/02/23:小鶴巡人さんから頂きました。
「迷いだすと何時間もかかりますよね! いやむしろ、そうやって迷ったほうが後悔しないとも言える!!」
「……選択は慎重に」
「そして結局決まらない」
「それでは駄目じゃの」

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